儲かる会社にはビジネスモデルがある。そのことを教えてくれた本が「なぜ、あの会社は儲かるのか?(ビジネスモデル編)」だ。
90年台の話であるが、マイクロソフトがWindowsとOfficeというソフトで一時代を築いたのも、当時としては画期的なビジネスモデルであったからであろう。以前はIBMに代表されるメーカーが、大型汎用機などのハードで利益を稼いでいた。
やがて、大型汎用機から小型のパーソナルコンピュタの時代になると、1台あたりの売上金額も利益金額も小さくなる。当然、今までどおりハードだけを売っていたのでは利益がでなくなる。メーカーはこの環境変化を察知して、素早く対応すればよかったが、うまくいかず、マイクロソフトのようなソフトウェアで利益を稼ぐ企業の躍進を許した。
マイクロソフトがWindowsとOfficeという2つのソフトで世界のトップ企業となり栄華を極める。今でもWindowsとOfficeで巨大な利益を上げているが、その裏では、新たなビジネスモデルがうぶ声を上げていた。OSやOfficeソフトを無料で提供し、別のもので利益を上げるビジネスモデルだ。例えば、Android OSやChromeOSなどのOSやWeb上で利用できるOffice ソフトを無料で提供し、広告事業で儲けるGoogleや、同じくiOSやMacOSなどのOSやiWorkなどのOfficeソフトを無料で提供することで、ハードで設けるAppleなどのビジネスモデルだ。
GoogleもAppleも面白いと思うのが、コストをそのまま売価に転嫁しない点だ。OSやOfficeソフトを作るには莫大のお金と時間が必要だ。会社としては相当のコストをかけたのだから、それ相応の対価を得たいと考えるのは当然のことといえる。しかしながら両者はそれをやらない。コストを売価に転嫁しても、市場の先頭を走るマイクロソフトに対抗することはできず、結局は競争に負けてしまう。ならば、コストを売価に転嫁せず、OSやOfficeソフトの市場での戦いは避けて、マイクロソフトが弱い分野であるハードウェアで儲ける。Appleの戦略は非常に美しさを感じる。文字どおり、戦いを省略しており、まさに戦略といえる。
マイクロソフトはOSやOfficeソフトを有料で提供している。有料なので、その品質や操作性はすば抜けて高い。お金を出して購入する価値がある。ただし、バージョンアップする度にお金を払うと問われれば、答えはNoと答える人は多いと思う。そうなると古いOSやOfficeソフトを使い続けるという選択肢が生まれる。最近サポート切れになったXPがいい例だ。
一方で、AppleはOSやOfficeソフトを無料で提供している。ユーザーは無料ならば、最新の機能を利用したいと思い常に最新のバージョンにアップデートする。アプリも最新のOSでないと動作しないとなれば、ユーザーとしては最新のOSを利用するようになり、ほとんどのユーザーは最新のOSやOfficeソフトを使うことになる。マイクロソフトのXPのような問題はAppleでは発生しないのである。Appleは古いOSの互換性を保つことに注意は払う必要がないので、結果的にOSやOfficeソフトなどの開発費は安くなる。これこそ、Appleもユーザーもみんながハッピーになれる方策だ。
OSやOfficeソフトを無料で提供することによって、結果的には開発費などのコストが安くなり、一方で、そのソフトでは儲けず、ハードで儲けることは、マイクロソフトとは異なるビジネスモデルといえる。
このように企業のビジネスモデルを研究するのはとても楽しい。もちろん失敗したビジネスモデルもたくさんあるだろうが、成功したビジネスモデルはまるで芸術のような美しさがある。
本書でも様々なビジネスモデルが紹介されている。本書の記載で面白いと感じたのは、〝マイナスの差別化〟という言葉だ。 中小規模の企業が大企業に挑戦する場合は、この差別化が重要になる。
マイナスの差別化について書いてみたい。
本書の中では
サービスの中から必要なものだけに絞る、〝マイナスの差別化〟を行うと、ビジネスモデルを転換せざるをえなくなるケースが多い。
と記載されている。
マイナスの差別化というビジネスモデルを、格安航空会社のLCCの例で説明している。
LCCの定義としては、①二地点間運航、②単一機種運航、③コア・サービス特化(ノンフリルサービス)、④ネット直販等が挙げられる。
格安航空会社は、格安な価格でサービスを提供するために、さまざまなコスト削減を行っている
例えば、単一機種運航とは、同じ機種の航空機のみで運航を行うことで、パイロットや整備員、乗務員などにかかる教育コストを抑えることができる。
コア・サービス特化とは、コアサービスを輸送のみに特化し、それ以外のサービスは行わないことで、コストを削減する。例えば、機内サービスの廃止や指定席を廃止する。機内サービスが不要ならば、その分価格が安くなる。指定席を廃止すれば、座席状況を管理するためのシステムや体制がなどが不要になり、コスト削減につながる。
ネット直販にすれば、代理店経由の販売に発生する間接マージンがかからずコスト削減につながる。
このように様々なコスト削減策を実施することで、同じ輸送というサービスに対して、安価なサービスが提供できるようになる。
あと、LCCで特徴的なのは二地点間運行だ。
大手の航空会社は経済性を考え、大空港と大空港を大型機で輸送し、大空港と小空港は小型機で輸送している。しかしながら、小型空港に行きたい顧客にとっては、必ずしも使い勝手が良い輸送方法ではない。
格安航空会社は、大空港と小型空港の二地点を直接運行する。
このことはいくつかのメリットがある。まずは、大手航空会社がいない市場ということがあげられる。これらのニーズがある顧客には圧倒的に支持されるはずだ。
もう一つは、小型空港は空港手数料が安いことがあげられる。これまたコスト削減につながるのだ。空港使用料が高い大空港を使わず、大空港から小空港の輸送を中心に置くことで、顧客にニーズをつかみつつも、輸送代は下げることが可能になっている。
そもそも、大空港と小型空港の二地点を直接運行は、大手航空会社が参入できないほどの小さな市場なので、参入障壁となり、格安航空会社はその市場を独占できるというメリットも生み出す。
格安航空会社は、このような様々なコスト削減をすることで、格安なサービスを提供しているのである。ただ、もうひとつ重要なことがある。それは安全性である。いくら安くても安全でなければ、誰も利用しない。安かろう悪かろうとは誰もが容易に想像することだ。
この点についても、格安航空会社のビジネスモデルはよく考えられている。先ほど単一航空機の運行はコスト削減につながると書いたが、それと同時に安全性の向上につながっているのだ。同じ機種を使っているので、間違った整備をしてしまう、間違った操作をしてしまうなどの発生確率が少なくなる。
安さと安全性という矛盾した事柄を両方叶えていることが、このビジネスモデルの素晴らしさであり、世界的に成長した理由であると言える。ただ単純に格安な価格体系だけを真似すると、安全性が犠牲となり、偽物の格安航空会社は廃業を余儀なくされる。
このように大手会社が行っているものをマイナスして、差別化を行うビジネスは大手に挑む中小企業の王道のビジネスモデルといえる。大手の強みが弱みになってしまうため、模倣が難しい。模倣するためには、大手のビジネスモデルを変革する必要性が発生するのだから、容易ではなく、後手後手にまわってしまう。
「マイナスの差別化」は重要なキーワードだ。
本書では、これ以外にも多彩なビジネスモデルが記載されている。なかなか興味深い内容になっており、非常に楽しくよめるので、ぜひオススメしたい。